A+S Project『気になるあの記事この記事』は、スタッフが面白いと思った記事や情報をまとめ、軽~いトーンでコメントや感想、考察を書いているもの。
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【気になるあの記事この記事】
大企業にサヨナラ、日本のアントレプレナー
記事の紹介
タイトル:Sayonara to the corporate life
出典:Financial Times (November 7, 2012)
原文:英語
(あくまでもこの記事だけを読んでも理解できるよう、内容を簡単にまとめ編集してある点、ご了承ください。一語一句正確に知りたい方は是非原文にチャレンジしてください!)
2007年、日系では最大手のコンシューマ機器メーカー、パナソニックを退社した岩佐琢磨氏は、東京でコンシューマ機器メーカーCerevo社を立ち上げた。大手メーカーでも厳しい状況の中、である。『特に不安は感じていませんでした』と34歳の彼は語る。会社名はConsumer Electronics Revolutionを省略したもの。自分自身のことを『楽しく挑戦を感じられることをやらないと駄目なタイプ』という彼は、長めの髪とオシャレな眼鏡という格好で、自社オフィスの角際でもつれたケーブルや機器の詰まった段ボール箱に囲まれている。いかにもアントレプレナーといった印象だ。
岩佐氏のように、毎月の給料を手放し、大手企業への所属を評価する社会的傾向を押し切って独立するアントレプレナーは日本では未だ少数派だが、本当にやりたいことに取り組むことによる刺激や満足を求める人の数は増加してきている。個性や自信を全面的に押し出す姿勢も、チームワークや和を尊重する日本社会では未だに珍しい。
濃い色のスーツと滑らかなネクタイという装いの遠藤直紀氏はファッション業界関係者と見間違うばかりだ。現在38歳というが、2000年にアンダーセンコンサルティングを退職した際は何をすれば良いか分からなかったそうだ。しかし『情熱を持てることをしたかった』と彼は言う。結果、顧客行動分析に基づいたウェブサイトデザインを行うbeBit社を2003年に創業。
現在29歳の八木啓太氏は、富士フィルムを退職後、東京と富士山の中間地点の小田原市でBSize社を設立。デザイン性が高いだけではなく機能性にも優れるコンシューマ機器の製造販売を行う。高校時代、アップル社のスティーブ・ジョブスに強く影響された、と物腰の柔らかい彼は語る。
日本の新世代アントレプレナーたちは、大手企業での雇用の保障よりも『やりがい』を重視する傾向が強い。大手企業で勤務をすることの方が起業よりもリスクが高いと言う者さえいる。日本の大企業はジェネラリストの育成を中心としており、社外でも即戦力となるスキルを身につけることが難しいからだ。『短期的には大企業の方が雇用の保障はある。しかし、もし倒産でもした際には頼ることができるものがなくなってしまう。長期的に考えると、どこででも戦力として使えるスキルを身につけていくことの方が雇用の安全につながる』、と遠藤氏は言う。
岩佐氏はパナソニックへ入社した頃は独立して起業することなど考えていなかったという。しかしYouTubeが流行りはじめたころ、インターネット接続可能なテレビの開発を社内で提案。しかし上司に時期尚早と却下されたという苦い経験を持つ。この一件により気づきがあった。パナソニックは既存のテクノロジーをベースとした開発には長けているものの、自分がやりたいと考えているような新しいプロダクトカテゴリーの開発は不得意なのだ。
彼は今、Cerevo社で10名の社員と供にインターネット対応デバイス『Live Shell』などを開発・製造・販売している。Live Shellを用いれば、デジカメで取った(コンピュータを介することなしに)動画を直接インターネット上でストリーミング配信ができるという。すでにベンチャーキャピタルから2ラウンドで計3億7000万円の出資を受けている。Inova、Kronos Fund、Inspire、Neostella Capitalなどの日系ファンドが主要投資家だ。
大企業によるコスト削減やリストラが日本の若者の起業の追い風となっているという。八木氏の会社には、現在パナソニック勤務している高校時代の友人が加わることになっている。『コスト削減ばかりを命じられて、仕事がつまらなくなってしまった』らしい。
すでに生活水準は高いこともあり、日本人の間は、物欲よりも健全な社会構築への貢献意欲が高まっている、と、ベンチャービジネス育成に携わる日本ベンチャー学会の田村万里子氏はいう。昨年の津波災害の後、家族や地域のつながりの重要性が再認識され、特にこの傾向は強まっている、という。『若者の間で社会貢献を希望する人が急増している』と田村氏は言う。
『人は世界をより良いものにするために働くべきだ』と遠藤氏も言う。『何よりもまず利益の追求、という思考は世界を滅ぼすと考えている。』ヘンリー・フォードや松下幸之助など、世界を代表するアントレプレナーたちはこのような考えのもとに起業したという。『単に楽しみのために起業した人はすぐ辞めてしまうが、よりよい社会を作ることを目指す人は簡単にはあきらめない』と彼は語る。
八木氏は社会貢献へのコミットメントからベンチャーキャピタルからの出資を断ったという。『利益追求型のビジネスモデルを投資家から求められても、それは自分の意志に反する』というのが理由。しかしベンチャーキャピタルの出資なしにbeBit社は78人のフルタイムスタッフと20名のパートタイムスタッフを抱える規模にまで成長した。住友三井銀行、ホンダ、ネスレなどの大手企業を主要顧客に持つ同社は、10億円を超える資本金を持ち、台湾に海外初の支社をオープンした。
これまでの日本では、アントレプレナーを取り巻く環境は厳しいものだった。金融セクターはリスクを嫌う上、日本は文化的にも失敗に寛容ではない。しかし政府はスタートアップ企業へのサポートを強化し、低金利の融資や融資保証を提供するようになった。八木氏はBsize社設立にあたり、政府系金融機関から2000万円の融資を受けている。
しかし最大の環境の変化としてはインターネットおよびオンラインサービスの普及が挙げられる。これらツールを活用することで、資金の少ない中小企業にとっても事業展開のバリアが大幅に軽減された。岩佐氏はSkypeなどのオンライン通話サービスやFacebookを利用したマーケティングなど、オンラインでの無料サービス増加が特に起業を後押ししているという。『Facebookを活用したマーケティングは、世界中で簡単にプロダクト紹介が可能であり、非常に効果的』という。オンラインで商品販売を行う八木氏もこれ同意する。『これまでブランドを確立するのは非常に難しかったが、ソーシャルメディアの力で大手と競合することが可能となった』。
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【ここからがA+Sのコメント!】
一昨日、有名ブロガーのちきりんさんと人事コンサルタントの城繁幸さんのしばらく前の対談記事、『大企業の正社員、3割は会社を辞める』(下記『関連リンク』にURL挿入)をたまたま読んだ後だったので、今回は英大手新聞ファイナンシャルタイムズで日本の大企業離れに関する記事を紹介することにした。ファイナンシャルタイムズは日本の企業文化に関しては特に批判的な記事が多いという印象があるが、今回は日本のアントレプレナーにスポットを当てた内容だ。
企業勤務経験なしに自分で事業を起こす人もいると思うし、今回取り上げられていた3名のように、大手企業での勤務経験を土台に起業するというパターンもある。ちきりんさんと城さんの対談でも、『今後、給料カーブの頂点が40歳ごろで600万円レベルという時代になれば、大企業勤務の社員の3割は会社を辞めるのではないか。特に優秀な人ほど、やってられない、と外へ飛び出すだろう』というコメントがあった。
本当にそうなって行くとしたら(個人的にもそうなると思う)、労働市場の流動性が重要になると思うが、でも、よくよく考えると、日本の外資系企業での労働市場ではすでにそれが達成されていると思う。2、3年で会社をどんどん変わって行く人は多い。なぜ外資系市場ではそれが達成されているのか?と考えた時に、実はホワイトカラー層の仕事が中心だからなのではないか、と思った。海外の企業にとって日本は製造拠点ではない場合が多いため、メーカーでもセールス、商品企画、輸出入管理、経理、IT、人事などの職務が中心。特に中途採用が中心の外資企業(かなり日系化している企業もある)では、そもそも新卒で入って来た社員はほとんどいないので、職歴と経験を売りに人が流れ込んでくる。
ただ、一歩下がって考えてみると、日本企業も製造拠点はとっくの昔に海外に移転しているため、随分同じような構造になりつつあると思う。ただ、発想においては全体的に以前の『製造業ありき』の在り方を引きずっているように思える。もちろん製造業が悪いと言っているのではない。日本の技術力の高さは国の強みだ。外から見ていると日本は少ししぼんでいる気がするが、まだまだ世界でも生活水準はトップレベルであることを国民が忘れているように思える。だからこそ、競争力を維持し高めていくためにも変化が必要なのではないか、と思う。
少し客観的に考えれば、今後の日本へのヒントはいろいろなところに隠れていると思う。変化の時期は個人レベルでも国レベルでも多少の思考錯誤は必須だ。大変な時期ではあるが、そろそろ『失われた○年』というのは辞めて、『取り返しに行く元年』と皆が言い始めればいいのにな、思う。
注:『海外ではああだ、こうだ』と私も時々言っている際に気をつけなければならないと思うことがある。それは、一般的に欧米においてもスキルを持ってファンクショナル・スペシャリストとしてどんどん転職している人たちはホワイトカラー層であるという点。それ以外の層の職業観はそれとはかなり異なり、例えば親子とも同じ工場で働くなどということもある。会社や土地への縛りがより強い傾向があることは事実だ。
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【関連リンク】
beBit社:http://www.bebit.co.jp/
Bsize社:http://www.bsize.com/
日本ベンチャー学会:http://www.venture-ac.ne.jp/
ちきりんx城繁幸の会社をちゃかす(1):大企業の正社員、3割は会社を辞める
(ビジネス誠 2011年5月6日付掲載分)
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発行元:Analyze + Summarize
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