2012年10月9日火曜日

連載企画①【トアル教授の5分講義】(2012/10/09):コトバの重みー創意を持つには(古典を読む理由)】


【今回のテーマ:トアル教授の5分講義シリーズ第4回 コトバの重みー創意を持つには(古典を読む理由)】


「創意をもつには方法は一つしかない。それは模倣することだ。よく考えるには方法は一つしかない。それはなにか昔からの検討をへた思想を継承することだ。」(アラン『教育論』五四)

逆説だろうか?

そうではない。前半部で言われていること、とくに「模倣」の大切さは、稽古という言葉になじんだ日本人なら誰でも理屈ぬきで知っていることだ。稽古の基本は「型」の修得にあるが、型は真似ることによって身につけるものである。それが「修業」の常道であり、また型を極めることによって型を抜け出ることができる――つまり模倣の究極にこそ創意がある――という考え方も、われわれには無理なく受け入れられることなのである。

では、後半部は何を言わんとしているのか?

古典に親しみ、古典から学べ、ということだろう。時間を超えて現在にまで伝えられている過去のすぐれた書物が「古典」である。そこには、人間が昔から考えてきたこと、問題にしてきたことが、選びぬかれた言葉や表現によって記されている。人間にとって最も大切なことは何か、その問題に取り組むにはどうしたらよいかを学ぶための最良の手本が古典なのである。

古典はまた、思考力だけでなく、言葉を鍛えるための良き手段ともなる。人間は言葉でもってものを考えると同時に、言葉によって自分の考えを表現するからである。われわれが思いつくさまざまなことは、それが言葉でもって明確に表現されたとき、はじめて「考え」とか「思想」と呼ぶに値するものとなる。逆に言えば、言葉で表現できないうちは、まだ考えになっていないということだ。

「良書を読むことは、その著者である過去の時代の最もすぐれた人々と語り合うことであり、しかも彼らがその思想の最上のものをわれわれに示してくれる、よく準備された談話でもある。」(デカルト『方法序説』)

だから、つとめて古典に親しもうではないか。それこそが、よく考える方法を身につける最も効果的な訓練なのだから。

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【ここからがA+Sのコメント!】 

本シリーズ最初の『外国語を学ぶということ』のコメントで、Management Decision-Makingというクラスに参加したことに言及したが、『われわれが思いつくさまざまなことは、それが言葉でもって明確に表現されたとき、はじめて「考え」とか「思想」と呼ぶに値するものとなる』という一文を読みながら、今回の講義においてもManagement Decision-Makingとこの関連性を見いだした。

これを機に、以下、Management Decision-Makingの授業で学んだポイントを紹介したい。
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Management Decision-Making:7つのポイント

●Spotlight:人は何かを決断する際、自分の知識や経験から『見えている部分』、要するにスポットライトが当たっている部分にフォーカスする傾向が強い。実はこのスポットライトが当たらない部分にどれだけ自分の意識を傾けることが出来るかが、決断を下す際に重要となる。

●The Linguistic Relativity Hypothesis(言語相対性仮説) : 言葉/言語が世界観を型取る。『The limits of my language are the limits of my world.』(Ludwig Wittgenstein)言葉の広がりが世界の広がりを意味する。

●Metaphors:メタファーは感情面での状況理解を形作る。自分がある状況をどのようなメタファーで捉えているかを理解し、メタファーを変えることだけでも物事の見え方が変わってくる。

●Confirmation bias:人はすでに正しいと思うことを立証するデータや情報を持論の正当化に利用するというバイアスがある。
また、

●Belief persistence:一度信じたことはなかなか忘れられない。

そうであるが故に、
●Naming the cow:自分が(決断の場において)繰り返し遭遇する同じ課題・問題には、名前を付けることで、意識的に見分けがつけられるようにしよう。(『Naming the cow - (多くいる)牛に名前を付けていく』というのはブラジルの表現らしい)

●Meta-knowledge:自分が何を知るかについての知識(メタ知識)は重要。『You overestimate the precision of your knowledge.』自分の知識の限界を知り、スポットライトの当たらない部分があることを認識し、謙遜になることも重要。
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言葉を用いるということは、漠然とした考えを明確化し、状況理解を促すことになる。また、必要な場合はそれに対して具体的にどのようなアクションを取るか作戦を立てる第一歩となることとなる。自分(の傾向、性向)を理解する、セルフノレッジ獲得という根本的な部分で努力を惜しんで、ビジネス書籍やセルフヘルプ系の書籍でテクニックをどれだけ取り入れたとしても、うわべだけの取り繕いとなってしまう。とはいっても、自己理解というのは一日ウンウン考えたから得られるものではない。長い時間をかけて、去年よりも今年、今年よりも来年、と時間の経過に助けられながら得るものだ。だからこそ、まずはその重要性を意識的に認識することが大事なのではないか。

そして新しいものを創造していくためには、まずは過去から生き残ってきたものをじっくり吟味し、そこで得られるエッセンスを十分に吸収してまずは『型』を作る。それが新たなものを生み出す基盤を作る。文学であれば古典を読むことがそれに相当する。(この点については、明日以降のトアル教授に対談でも少し補足してもらっている。)

高校生のころ読んだ本も、大人になった今読むと、その深みに圧倒されることがある。直結していないようで、文学に親しむことも実はビジネス面での自分の成長を促すことになるということだし、私もビジネス本は少し横に置き、今一度、昔好きだった文学をまた読もうという気になった。

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