2012年10月10日水曜日

連載企画①【トアル教授の5分講義】(2012/10/10):トアル先生との対談①


【今回のテーマ:トアル教授の5分講義シリーズ最終回 トアル先生との対談①】
  

Analyze + Summarize(以下、「A+S」):トアル先生、4回分の執筆、ありがとうございました。

トアル先生:いやいや、以前書いた記事を再利用しただけなので、べつに苦労はありませんでしたよ。それはともかく、コトバの重みという少し固いテーマだったので、難しそうな話も入ってきましたが、不評は覚悟のうえで、あえてこういうものを投げかけてみました。期待に沿える内容になっていればよいのですが、どうでしたかな?

A+S:いえいえ、固いのが新鮮だというコメントもいただいておりますのでご安心を。ご自身の40年間を振り返ってどうですか? いまでもコトバの新鮮さを感じられますか?

トアル:《いまでも》ではなく、いまはなお一層、コトバの新鮮さを感じるようになってきました、と言うべきでしょうね。その理由を説明するため、ここでは言語能力・言語感覚という言葉を使いたいと思いますが、この能力・感覚は、長い時間をかけて鍛えられ磨かれていくものだからです。

 天才的数学者や詩人は、若くして才能を開花させることがよくありますが、たいていの専門分野は年齢を重ねれば重ねるほど能力が増していくものです。もちろん、年を取ると(とくに筋力などが重要な要素になる分野では)肉体的な衰えからくる《力の衰え》は避けられないでしょう。しかし、達人・名人と言われる人たちは、肉体的な衰えにもかかわらず、老いてなお《道》を極め続けます。日本の伝統芸などでは、よく知られていることですね。まして、文学や言葉 ー 言語能力や言葉に対する感性 ー のように、肉体的な衰えがあまり問題にならない分野だと、経験や知識の蓄積がことのほか重要になります。

 外国語の力、いわゆる《語学力》もそうです。確かに記憶力は、ある年齢に達した後、衰えていくと言われています。だから、外国語は若いうちに勉強をはじめることが強くすすめられているのです。外国語学習は、とくに初級レベルでは、単語や表現をまず暗記すること、言語によっては文字を覚えること、あるいは動詞の変化などマスターすることなどが基本となりますから、記憶力が衰えないうちに勉強をはじめる方が有利なことは確かです。

 しかし、語学の学習は、ある程度のレベルまで達すると、記憶力以外の要素がもっと重要になります。たとえば:
●その言語の基本構造を知ること(早い話が文法を徹底的に勉強すること)
●その言語の習慣や約束事を知ること(つまり歴史的・文化的知識を蓄えるということ)
●その言語を使う人々の思考パターン・行動パターンを知ること(それを知らないと、言われていることの意味がわからなくなることがよくある)
●文章 ー それもしっかりした、内容のある文章、すぐれた文章 ー をできるだけたくさん読むこと(言語感覚、言葉のセンスは、すぐれた文章に接することによって磨かれる)、などなどです。

 実はこれは、外国語学習についてだけではなく、母語の《言語能力》を鍛えるためにも言えることです。さらに言えば、外国語を学ぶことを通じて、はじめて母語を客観的に捉えることができるようになります。「外国語を知らない者は自分自身の言語について何も知らない」(ゲーテ)という箴言さえあるほどです。

 外国語であれ母語であれ、言語能力を高め、言語感覚を磨くには、時間がかかります。時間をかけて力をつける、磨きをかける、そうするうちに以前は見えてこなかったものが見えてくる、わからなかったことがわかってくる。修行という言葉がありますが、まさに修行を積んでいくとはそういうことでしょうね。

 ついでに言えば、若い人たちには、ぜひ外国語を、それも複数の言語を学んでほしいですね。外国語をひとつしか知らないと、それがまるですべてであるかのように錯覚してしまいます。外国語=英語、英語=外国語という錯覚に陥っている人がこの国には多すぎますね。その錯覚を矯正するためにも、複数の外国語を学ぶ必要があります。複数の外国語を学び、それらを自分の母語とも比較してみたとき、言語にはそれぞれの個性があり、互いに共通点もあるが違いもいろいろあるのだということが実感できるでしょう。言語の多様性、文化の多様性を知ることは、今日のようなグローバル化する世界ではとりわけ大切なことです。

(次号に続く…)

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