2012年9月5日水曜日

【記事リビュー】海外でのM&Aを成功させるには(McKinsey Quarterly - A yen for global growthの抄訳とコメント)


海外でのM&Aを成功させるには ー 
A yen for global growth: the Japanese experience in cross-border M&A (McKinsey Quarterly August 2012)

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【参考記事の紹介
タイトル:A yen for global growth: the Japanese experience in cross-border M&A
出典:McKinsey Quarterly August 2012
原文:英語
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【記事の抄訳
(注!あくまでも内容を簡単にまとめたものである点、ご了承ください。
一語一句知りたい方は、是非原文にチャレンジしてください!)

昨今の円高と国内市場の低迷を背景に、日系企業の海外事業拡大の傾向が強まっている。実際、ここ数年で海外市場での買収案件が急増しており、1990年代のピーク時を超える勢いとなっている。過去の海外事業買収の失敗という痛い経験がなければ、実際はもっと多くの海外買収が行われたと考えられる。

買収後の子会社の組織的な位置づけに関する問題、子会社の特性や違いを理解せずに日本本社のやり方を押し付ける、買収先の社員に対する配慮の欠如、買収直後のインテグレーションにおけるリーダーシップやスキルの欠如など、 グローバルM&Aを担当する日系企業側のトップマネジメントは海外買収におけるハードルを十分理解している。

しかし、 ビジネス文化、マネジメント文化の根本的な差異から起きる問題もある。
日系企業に買収された企業で勤務する外国人にインタビューを行った結果、以下のポイントが挙げられた。

①ハンズオフアプローチ
買収先は自由を求めるだろうという思い込みがあるためか、ハンズオフのアプローチを取ることが多い。そのため、買収された側にとっては期待していた親会社のリソースやケイパビリティのフル活用が難しい。

②曖昧なパワーストラクチャ
誰が社内でのキーパーソンか見極めるのが難しいため、関係構築が難しい。

③中間管理職による本社連携の妨害
実際に子会社との橋渡しを行うのは本社の中間管理職であり、トップへのインプットをスクリーニングする。そのため、子会社からの依頼や希望が本社CEOに対して届いていないなど、情報共有の面で問題がある。

④外国人であることがキャリアの妨げとなること
日本の組織で昇進していくことは難しいと感じられ、給料や待遇には満足していても会社を去って行くものが多い。

⑤詳細事項への執着
日本人の詳細事項へのこだわりに抵抗感を感じる外国人トップも多い。買収の際のデューディリジェンス項目の多さに加え、外国人トップは買収後も細かいデータを執拗に要求されることを嘆く。

⑥買収後のプラニングの欠如
買収契約締結直後、どのようにインテグレーションを行うかについて具体的なアーキテクチャが準備されていない。トランジション時のガバナンスや意思決定プロセス、リソースアロケーションなど、経営にクリティカルな問題が十分話し合われないままになることが多い。

⑦買収締結後、突如よそよそしい態度を見せる
ネゴシエーション中は密に連携しフレンドリーだった日本側のカウンターパートが買収締結後、突然他人行儀になる。日系企業のみに限ったことではないが、日本人は基本的に礼儀正しいため、買収後の変化が特に顕著に感じられる。

上記のような海外買収の落とし穴を回避するには、4のアプローチが考えられる。これらのアプローチをうまくミックスして取り入れることが重要。

①メンタリングやリーダーシッププログラムを実施し、タレント育成を合同で行う(トップマネジメントレベルでのインテグレーション)
スズキのインド事業、武田製薬の米国事業などでは導入されているアプローチ。

②買収先とのコーディネーター部門を設ける(部署レベルの対応)
日立建機はインドのタタ自動車との合弁会社で導入

③買収先においてトレーニングや組織変革を行う部隊を設ける(実働部隊のインテグレーション)

④本社の企業文化が子会社組織全体にも行き届くよう、カルチャーインフュージョンプログラムを実施する(会社レベルでのインテグレーション)

スズキはインドでは異例である、社長が一般食堂で食事する点、社長以下全社員が同じユニフォームを着る、トップと一般社員との差別のない企業文化をインドでも定着させ、また日本で行っている朝の体操もインドで導入した。

今後も成長していくには、日系企業は必然的に海外市場への拡大が必要となる。自社の強みや市場のバリュードライバーを考慮し、買収後の指針や計画を明確に持つことが海外買収の失敗を回避することにつながる。

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【A+Sのコメント】 

このマッキンゼーの記事は、海外買収に際し、日系企業がよくやらかしてしまう失敗と対応策について記載しているが、 個人的にも米系企業での勤務経験から、欧米側のコメントも多少理解ができたような気がする。私が以前勤務していた米系企業はFortune 10入りするマンモス企業。他分野で事業を展開しているコングロメレートだ。最近では少し数が減ってきたものの、以前は鬼のように買収ばかりしていた時期もある。

この会社では、買収後のインテグレーションをリードする、インテグレーションリーダーは花形ポジション。将来的に買収先を含む拡大された事業のトップポジションに着任する可能性が最も高い。インテグレーションをスムーズに行うことは容易いことではないため、トップへの登竜門として活用されているのだ。

このように鼻息荒く買収慣れした企業が、買収後ハンズオフであることはほぼない。マッキンゼーが提案していた4点の、少なくとも3点は導入されていました。

ところで、ハンズオンであるということは、必ずしもマイクロマネジメントし、些細な点でも意思決定に口を出すということではない。ハンズオンというのは、そもそも買収したときの目的を達成するため、最適と思われる方法で着実にインテグレーションの駒を進めていく、という意味だ。もちろん、とやかく言わないとことが進まない場合はマイクロマネジメントすることも方法の一つだが、統合後のビジョンや買収した事業の取り込みのブループリントがあるかどうかが大きな鍵だ。

そう考えると、先ほどの記事で挙げられていた、日系企業がおかしがちな失敗①のハンズオフである理由は、⑥のプラニングの欠如と関連があるように思える。

というより、短いながらも日系企業に勤めた経験から感じる日本側の事情とはこうなのではないか、と思う。

⑥買収後のプラニングの欠如
(海外事業運営経験が欠如、具体的なビジョンがなく買収を実施、そもそも海外事業を取り込める社内体制やリードできる人的リソースがない、など)
②曖昧なパワーストラクチャ
(誰が実際買収後に責任を持ってインテグレーションを実施するかが不明瞭なまま買収後のインテグレーションがキックオフされる)
①ハンズオフアプローチ
(とりあえず買収先に任せて、本社側では中間管理職に委ねる)
③中間管理職による本社連携の妨害
(戦略的思考というよりは、自分と本社トップとの関係性を中心に動くため、無意識的に、あるいは意図的に情報操作をしてしまう)
⑤詳細事項への執着
(しかし、本社トップに質問されたら答えられるよう、詳細事項まで性格に把握しておかなければならないという状況にあり、細かい点のバックアップをしたがる)

ついでに①~⑦の全項目に触れるという意味で上記に挙げなかった2点についても触れるとすると…

 ④外国人であることがキャリアの妨げとなること、これは日本企業の国際化が限定的であるという問題が原因であり、買収先、本社に問わず見られる現象。

⑦買収締結後、突如よそよそしい態度を見せる、という点だが、おそらく当初の礼儀正しさとのギャップも大きいとは思うが、その他、例えば、日本人の傾向として反対意見をパーソナルに受け止めるところがあるため、経営判断として厳しいことを突きつけることが相手にとっても同じようなパーソナルなことに感じると考える傾向があり、人間関係がゆがむのはいたしかたないと思っている節があるように思える。

おそらくこれからは、大企業のみではなく中小企業も海外市場に成長を求めることになるだろう。海外事業展開というのは非常に難しく、熟練のM&Aプレイヤも失敗することがある。

ただ、非常に単純化して生活レベルに落とした言い方をすれば、主婦だってスーパーで1000円の牛肉を買う時に、今晩はこれにしよう、と思うわけである。プランがあっても不成功に終わる買収もあるから、プランがなければなおさらだ。肉なら冷凍しておけばよいが、生ものの企業や事業はストップ することはできない(できるがもちろん売上が削減に至るだけ)。

海外に行かなければ今後の成長はない、という焦りがあるのは当然だ。ただ、プロダクトやサービスなどの分かりやすい部分でのマッチに加え、徹底的なターゲット市場情報収集、その国のビジネスガバナンスモデルの理解や、買収先の企業文化、そのような見逃されがちな部分でのナレッジが合併のスピード感を司るのではないか。

は〜。グローバルの事業展開は奥が深いぜ〜…。

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