2013年1月12日土曜日

個として飛び出すグローバル (2013/01/12):【渡航前】【語学力】専門分野の語学学習は日本にいるうちに!


【今回のテーマ:専門分野の語学学習は日本にいるうちに!】

海外に飛び出したい、という人によく相談される。『あれがしたい』『これに興味がある』。『でも、語学ができないんです。どうしたらいいですか?』と聞かれることも多々ある。

現地に行けば自然と身に付く、という人もいると思うが、私は敢えて厳しく突き放す。『それじゃあ前途多難、厳しいと思います。』

当然、そういうことを言うと、とても嫌われる。『あなたは語学に長けていてラッキーですよね』と言われる。確かに私はそこそこ耳がいいと思うし、そこそこいい加減な性格であるところも、実は語学学習にプラスになっていると思う。

でもそういう理由は、言葉以外にも苦労しなければならないことは山ほどあるからだ。だから、日本でできる苦労は、日本にいる間に処理しておきたい。

語学学校に行くこと自体が目標であれば別だが、相当語学が出来ない限り、外国語で勤務しながら活躍するというのは難しい。というよりも、採用してもらえない。私の周りでも、専門分野を持ち、語学だって上級の人でさえ『言葉ができぬ』『思いが通じぬ』とため息をついているので、語学力から現地で身につけるという姿勢ではロスが多い気がする。

そういう嫌なことを言うと、『じゃあどれぐらい出来ればいいんですか?』、と半分怒った顔で聞かれる。TOEICで何点取ればいいのか、とかそういうことばかり聞かれる。

目安が欲しいのは良くわかるが、私ももう長いこと語学検定などを受けていないので、正直何点取ればいかほどか、というのは良く分からない。

それにコミュニケーション力には幅がある。
私の周りにも、こういう人がいる。本人は外国語は苦手と言っているし、実際大してスラスラ話すことは出来ない様子。それでも、謎に学者から若者までと幅広くそれなりにコミュニケーションが取れている上、相手も積極的に彼女に話しかけていく、という不可解な現象が彼女の周りで起きる。本人曰く、『総合力で勝負』。彼女の言う総合力には何を含むのかよくわからないが、一般常識とか、専門分野の知識とか、親心とか、ひと好きがする、『全部分からなくても大丈夫力』の高さなどと私は理解している。結局はコミュニケーション力は総合力なのだ。

ただ、適当路線を貫くよりも、なるべく言葉はちゃんと勉学した方が良い。仕事で外国語を使う場合、絶対に、発音が悪いよりは良い方、文法が曖昧より完璧な方が全般的に評価が上がりやすい。理由は、もちろん『周囲に理解されやすいから』。もっと言えば、発言に中身があって多少発音が悪いのは許されるが、中身もあやふや、発音、表現力が乏しい場合は職場では相手にされなくなる。

相当珍しい外国語を勉強しない限り、日本でも教材には事欠くことはないし、語学学習の達人という人たちの本から学習テクニックも学べる。語学学習のプロが勧めることを片っ端から試してみればいいと思う。だから、自分なりに『やれることはすべてやった』と思えるぐらい、徹底的に取り組んでみると良い。実際に何よりも大事なのは、他人による語学スキルの評価ではなく、自分で『知らないことは説明してもらえば理解できる』と思える自信なのだ。できると思っていれば、分からなくても『分かるはず』、完璧でなくても『大筋は伝えられる』、と思えることで、ひとまず最初の3ヶ月を突破していける。

ただ、それでもしつこくどう準備をすればいいか教えてほしいと迫られると、『今日、日本語でも一番説明しづらいと思ったことは何か』を毎晩考え、『それを自分なりに外国語でどうにか言えるかどうか』、を考えてみると良いのでは?とアドバイスする。

相当語学が出来ても、というよりも、母国語であっても、毎日完璧に言いたいことが言えた、ということはあまりない。後でこう言えば良かった、ああ言えば良かった、と後悔する。だからこそ、その日一番難しいことを後付けでも『こういう風に言えばいい』と思える表現が出てくるようになれば、ある程度のレベルに達したと考えていいと思う。

語学力はなだらかにアップしない。数ヶ月単位で段階的にアップし、あるとき突然音が聞き分けられ、文章が理解できるようになる。だから、しつこく勉強した人が能力アップしていく。

あまり難しく考えすぎないでもいいと思う。語学は基本、パターンプラクティスで、ハコ(文法)と単語の蓄積がモノを言う。

パターンプラクティスとは、『私は猫が好きです』というのを『あなたは猫が好きです』『私は犬が嫌いです』という風に、パズルのように組み立てるイメージだ。大抵の西欧言語では、『好き』と言えれば否定を加えることで『嫌い』と言える。そして『猫』『犬』『うさぎ』、あるいは『私』『あなた』『彼』という風に変えて行く部分の語彙を増やすことがまずはてっとりばやい。

そして、正しい外国語を話すための基本は、文章の構成の基本となる文法だ。日本人は文法ばかり勉強してるから語学が出来ない、という批判があったが、いえいえ、ハコは何よりも重要です、だから何よりも先に基本文型、まずそれありきでしょう、と私は思っている。

ハコは学校で学んだから、語彙力はどこからつけていけばいいのさ?という話になるが、日常会話は本を一冊とりあえず買ってそこにあることをすべて学ぶとし、その後は自分の専門分野の語彙をどんどん習得していくのが仕事をしていくことを考えれば最も効率的だと思う。専門分野の本が読めるぐらいの語彙力があれば、確実に話せるようになっていくと考えている。だから、話せないから不得意と感じるよりも、そもそもの得意分野、専門分野であればすらすら外国語で本が読めるというレベルになる、というところまで頑張ってみるのが近道だと思う。

だから基本レベルを押さえている人は、『おはよう、こんにちは』の英会話学習は辞めて、自分の専門分野の本を片っ端から読み、今日一日でどうしても伝えたいことを考えてみると良いと思う。

ただ、あまり語学力が重要、というと誤解が生じるので最後に一点付け加えておくと、海外市場では、語学力が高いことだけが理由で採用されるパターンは限定的。日本のような総合職という考え方はあまりないので、とりあえず採用しておいて使い方を決めよう、という風に人事は動かない。まずはスキルありき。一度、帰国子女という方が『日本語と英語のバイリンガルとして仕事をしていきたい』と面接で発言されたことがあるが、正直びっくりした。とても性格も良さそうで優秀そうな方だったので、分野違いの会社での面接でそれしか言うことがなかったということだったのかもしれないが、(この場合は英語だったが)英語は話せて当然。加えて何をスキルとして、知識として持っているか。勝負はそこになる。

日本での就職活動もかなり厳しい状況であるようだが、海外市場だって簡単ではない。むしろ厳しい。だから、出来る準備は出発前に十分しておくことをおすすめする。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
発行元:Analyze + Summarize
Copyright(C)Analyze + Summarize
無断での転記引用はお断りしています。

2013年1月6日日曜日

個として飛び出すグローバル (2012/01/06):【渡航前】【心構え】飛び出すか迷っているときに


【今回のテーマ:飛び出すか迷っているときに】

こういう質問を受けることがある。『海外に行くか迷っています。どう思いますか?』

そういう言われると、結構回答に迷う。

本当は『迷うぐらいなら辞めた方がいいです』と言いたい。日本はまだまだレールを重んじるところがあり、一度離れると軌道修正がしにくい国だ。迷った挙げ句レールを外れて、やっぱり後悔して戻る、となると、また二重に損する感じがする。女性であれば、30代以降は就職も厳しくなり、なかなか正社員がない、と聞く。そんな状況で外に飛び出すのであれば、もう戻れないという強い覚悟がなければ難しい。

でも一方で、『いや~、いろんなところに住むっていうのも面白いですよ~』と言って後押ししてあげたい自分もいる。そういう道を選んだ自分も、そこまでの意気込みで海外に来た訳ではなく、何だかそういうふうに人生が流れてしまった、という方が現実に近い。すべて計画通りには行かないのも人生。波瀾万丈とは言わずとも、結構日常的にスリルが多いことも確か。

だから、わざと少し論点をずらして、『体力的に自信がありますか?』と聞くことにしている。

そうすると、必ず、『え??体力ですか?』と言われる。
『それ、文脈的におかしいだろう』、『何たぶらかしてるんだよ』という相手の心の声が聞こえてくる。

困惑する相手に対しいつも言っているのがこれ。『いやね、海外で一人でやっていくって、結構馬力がいるんですよね。』

そう言っても大抵すぐはレスポンスがないので、そこからは好き勝手話し始めるとする。

そもそも、普通に考えて日本人が自国・日本で会社勤めをするだけでも毎日結構大変だと思う。(この点をあまり認識していない若者からも相談されることが有る故、まずはそこからスタート。)それをわざわざ他国でやろうと思うと、行き着くところは精神力、体力勝負と言っても過言ではない。海外でピンで活路を拓いて行くには、『石の上にも3年』というか、最初の数年が鍵となる。周りを見ていると、厳しい3年を頑張り抜けた人は大抵その後余裕で居残る。

だから、どこから手をつけたらいいか分からない、という人には、『とりあえず毎日腕立て伏せ30回やることから初めてはいかがでしょうか?』という。そうすると笑われる。でも『その30回を半年続けることができたら、ひとまずやる気という意味ではパスしたと自分に言ってあげていいと思う。しかも実際に体力(腕力)もつくわけだし、得した気分になってほしい。』と言う。

どこから手につけていいか分からないのなら、少し具体化するお手伝いをするという意味でそう言うが、そうするとほとんどの人が自主的に何かしら行動を起こし、『準備として○○を始めてみました』と言ってくるようになる。そうやって多分イメージが少しづつ沸き、話に現実味を帯びてくる。

ほんの少し背中を押すだけでこんなに変わるのだな、と思いながらも、逆に辛いのが、一人で飛び立った後、最初から現地でそういう風に支えてくれる人が必ずしもいるわけでもないという点。つい親心のように心配してしまったりもする。

とはいっても、別に毎日が辛く悲しいわけではない。というよりも、通常は楽しい日や普通の日の方が圧倒的に多い。ただ苦しくなってきたときに自分を救えるのは自分の精神力だけだ。

そんなこと、海外にいなくたって同じだ、と思われるかもしれない。いやいや、でも周りにサポートシステムがない場合は結構辛いんですよ。グッと来るんです、痛みが。しかも、例えばヨーロッパのように、昼が短く曇りがちの冬に、周りには何でも話せる友達もおらず、セントラルヒーティングは故障して寒いし、ボイラーは不具合を起こしている、という状況(※こういう環境的不具合、よくあります)。そんな中、『今は○○だけど、自分には乗り越えられるに違いない』と、自信を振り起こして前進していかなくてはいけない。トンネルの先には光が見える(…気がする)、と信じていくしかないのだ。

…と、想像するだけで多少暗い気持ちになってしまう。

ただ、辛いときに真面目に自分にムチを打つ必要は全くないと思う。必要なのは、そういう中でも、『ま、いいか~♩』と適当にやり過ごすことが出来る力。

ん?それって『力』と呼ぶものなのか?

はい。敢えてそれは力だと呼びたい。
…と言い切りつつ、一瞬『力ってそもそも何さ?』と不安がよぎったので辞書で調べてみた。

力とは、『何かをするとき、また、動かすとき、それを可能にする働きを生み出すもの』だという。

なるほど。『それを可能にする働きを生み出す』、か。適当にやり過ごすことを可能にする働きを生み出す、というと、何が何だか分からないが、精神的な凹みを乗り切るエンジンと考えれば、それも力なのだろうか。

まあ、迷っているならば、とにかくゼロからイチに何かを動かし始めるといい。それが毎日腕立て伏せでもいいのではないか。ただ、決めたリズムで継続することが大事。たとえ目標とかけ離れているように見えても、機動力をつけることは人生においてもプラスになる。そういうわけで、これからもクサいことやカッコいいことは言わずに、多少トンチンカンでもこのようなアドバイスを私はしていこうと思う。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
発行元:Analyze + Summarize
Copyright(C)Analyze + Summarize
無断での転記引用はお断りしています。

2013年1月2日水曜日

個として飛び出すグローバル (2012/01/02):【企画の紹介】はじめに


 『個として飛び出すグローバル』というテーマを見つけたのは、Analyze + Summarizeを立ち上げてからのこと。

Analyze + Summarizeはそもそも5分の隙間時間を有効活用するために面白い記事をリビューしますよ、との押し売りで始めた割には、日々気になったことについて好きに話すという方向性で進んでいた。

そんな『押し付けられた友達以外、誰がこんなもの好んで読むのかねえ』と思い悩む、ある日のこと。

ーーーー
Analyze + Summarize、今後どうするのさ?
何が売りなわけ?
読者、離れつつない?
もっとガンガン書くべきじゃない?
お金にならなくてもいいわけ?

そもそも、私でなくても日本プラス2カ国経験者なんて、結構いるじゃん?
駐在さんとか、一度海外に出たら海外組になるっていうし。」

と自分を責め始めると、自己保存本能が動き始め、

ハッ!

と、ここで今日の気づきがあったわけです。

『個として飛び出すグローバル(仮)』。

日本の会社に所属しての海外組は結構多い。中には大きなお金を動かしている人たちもたくさんいる。エリートと言われる人たちだ。
10年ひとつの(外)国にずっと住んでいる、その国のベテラン日本人の方もたくさんいる。現地情報は彼らの方がずっと詳しい、ローカルエクスパートと言われる人たちだ。

でも他のカテゴリーにはノマドもいる。ピンでこれだけ海外を住み渡り歩いて結構普通に仕事をしてきた人は少ない。そう考えると、勝手にひとりで外に飛び出した人が、そこで活躍していくには何が必要か、どんな壁や挫折があるか、(どういう面白みがあるか、)そういうことならそこそこの自信を持って語れるような気がする。(ただ、「良い子は真似をしないように」という話になってしまってはしょうがないが、そこはモノは言いようということか。)

ーーーー

『勝手にひとりで外に飛び出した』というのは多少失礼な表現だが、以前書いたことなので修正を加えずに掲載。)

日系のビジネス本や雑誌を読んでいると、日系企業からの海外勤務経験者や国内の外資系で活躍されている方の意見は目にすることができる。ただ、海外でガチンコ勝負している人の声はなかなか届いていないようで、そのためか、ときどき『海外組の実態を教えてほしい』と聞かれる。そこで自分の過去を振り返り、自分なりに考えをまとめるついでに、最も汎用性が高そうな部分を共有していこうと考えるに至った。

(至った、とはいっても、しばらく前に『来年は「個として飛び出すグローバル」を書きます』と言ってしまった手前、やらなければならなくなったという方が現実には近い。)

もちろん、私以外にも特に日本を相手にすることもなく海外市場で活躍されている方もたくさんいる。だからあくまでも一個人の経験だ。(将来的には他の方の経験談もここで紹介できるようになれば、これから飛び出そうとしている人や飛び出した先で活路を見出そうとしている人に何らかの参考になるのではないか、と思っている。)

私自身は、転勤などという形で組織に属して海外に働きに来たわけではなく、海外で大学院を卒業後、現地でそのまま外資系企業に就職し、そこからいろんな国や会社を渡り歩いてきたタイプ、『結果ノマド派』だ。特に望んでそうしてきたわけではないが、何となく流れで現在も外資系企業(=日系じゃないという意味)に勤務し、これからも仕事をしていこうと考えている。

特に大それたミッションを感じているわけでもなく、人生も緩やかに現在進行中、未完成、まだまだこれから、といったところだ。結構働き者だとは思っているが、人様に偉そうに何かを語る資格は大してないというのも自分が一番良く分かっている。そこが辛いところだが、その辺はお許しいただくとして、使える話は活用していただければありがたい、というスタンスで、特にこれまで個人的に質問されたことを中心にまとめたいと思う。

なお、この連載では、なるべく自分が理解していることを書きたいため、自分の状況に近いことを目指す、あるいは同じようなことをしている方を意識して書いている。
具体的には、読み手の想定としては、
『(駐在員などのように)組織に属しているわけではなく』、
『(個人事業主ではなく)一般企業に勤務』している、あるいは勤務を考えており、
『(ゆるキャリというよりも)現地でそれなりにバリバリ仕事をしたい』
という前提で書いている。

加えて、私自身はひとつの国のローカル・エクスパートではなく、日本以外にも5カ国で勤務経験を持つ、ピンである上、しかも『流れ』でもある。あるひとつの国については私よりも知識豊富な方が大勢いらっしゃることも十分理解している。その点はご了承いただきたい。

最後に、私は子供のころから十人十色というコトバがとても好きなタイプで、基本的には何がいいかなんて、分からない、人それぞれだ、と思っている。だから『個として飛び出した方がいい』とか、『いやいや、組織から派遣された方がいい』とか、そういう価値判断はしていないつもりだ。あくまでも『へ~、そんな人もいるんだ』、という程度で、選択肢のひとつとして捉えていただければありがたい。




-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
発行元:Analyze + Summarize
Copyright(C)Analyze + Summarize
無断での転記引用はお断りしています。

【年始のご挨拶】(2013/01/02):今年もよろしくお願いいたします


明けましておめでとうございます。

2012年9月1日の創刊から、ANALYZE + SUMMARIZEを応援いただき、本当にありがとうございました。つっかかりひっかかりしながらもどうにか無事に継続出来ているのは読者の皆さまのおかげです。
まだまだお気楽な活動でしかありませんが、ひとまず2012年1月1日に立てた今年の抱負、『今年は自分にとって新しい年とする』『何か自分で始める』という目標を元に、どうにかとっかかりを作ることはできたと考えています。

走りはじめた今は『継続は力なり』という言葉の重みをヒシヒシと感じています。始めることは勢いに任せればなんとかなるものの、続けることは自分への意味付けと継続への意思が必要です。『面倒だ』と思うことはあまりないですが、『うまく書けていない』と思うことは頻繁にあります。『こんなの誰が読むんだろうな~』と弱気になることもしばしば。それでも、何となく『今日のテーマは何だろう』と思ってくださる人が数人でもいるということが励みです。

とはいってもまだスタート地点に立っただけで、今後どうしようかなあ、と、課題は山積みです。でも、多くを望まず、まずは何よりも2013年の目標は、『とにかくASを死に絶やさない』です。ガンバリマス。

その他の今年の抱負としては、中国語の勉強です。とはいっても初級で少しは分かるようになりたい、というレベルですが、公言することで自分を追いつめることにします(笑)。こちらもガンバリマス。


------------------------------
発行元:Analyze + Summarize
Copyright(C)Analyze + Summarize
無断での転記引用はお断りしています。

2012年12月23日日曜日

Write There Write Now(2012/12/23):出すぎた杭も使い用なのでは?


【今回のテーマ:出すぎた杭も使い用なのでは?】


今朝、日経ビジネスを読んでいて、最近駐在員の間に『OKY』という表現があると読んで吹き出してしまった。日本本社に対する不満で『O(お前が)K(来て)Y(やってみろ!)』の略らしい。面白い~。

『グローバル人材の幻想』という企画のようで(リンクは最後に参照記事として掲載)目を通したが、幻想として以下3点が挙げられていた。
①機会を与えれば人は育つ
②海外人材ならいつでも採れる
③うちは人材を活かしている

どれも確かにそうだなあ、という内容で、読み進める。

最後は

『海外の優秀な人材にとって、日本企業は想像以上に魅力を失っている。日本人のグローバル化も途上だ。日本の本社が発想も組織もグローバル化しなければ、人材不足が将来の海外事業展開の大きな阻害要因となりかねない。足を止めた企業に未来はない。』

と締めくくられていた。

なるほど。

もともとグローバル化に注力していた企業、あるいは商社のようにそもそもグローバル思考が根底にある企業の海外展開はすでに確立しているし、売り場としての海外市場というのもある程度進んでいると思う。だから多くの会社にとってグローバル戦略のネクストステップは、組織戦略、人材戦略という分野になるのだろう。

ちなみに、この企画でも取り上げられていたが、日本ではGEのような会社がグローバル化の成功例として提示され、あたかも全般的に米系企業が進んでいると見えるかもしれない。ただ現状はそうでもない。日本と同じように、売り場確保では一定のプレゼンスを確保し、組織、人材のグローバル化はこれから、という企業も多い。

ただ、個人的な経験から言えば、海外の日系企業(海外支社)と米系企業の海外支社を比較して組織、人材戦略で圧倒的に異なると感じる点がある。あくまでも個人的な経験なので、海外にいる一人の日本人に対しどういう対応がなされたか、という一例でしかないことは認める。ただし、海外5カ国で勤務経験を持つので、複数カ国のデータポイントに基づいて評価しているとは考えている。

①『ポテンシャル』に対する評価の違い
米系企業の方が基本的なスキルセットや経験ベースを持っていると、ポテンシャルを買う意欲がより高い。日系企業はとりあえず下のポジションから採用してみよう(駐在員の下につける)、という動きを見せる。なんせ、日本企業では昇進スピードが遅いので、「とりあえず」から次のステップへの道のりが長い。そうなるともちろん採用される側としては、ポテンシャルを買ってくれる会社を選択するだろう。

②採用は『人材確保合戦』であることに対する認識の違い
米系企業の方が採用をより戦略的に捉えており、人材は取り合いと見なしている。そのため、傾向として、結果、給料が高い(個人的な経験では日系の提示額の倍相当を提示してくる)。日本ではここのところずっと買い手市場の雇用市場であることからか、海外でも人材は奪い合い、ということを忘れているように見受けられる動きも多い。日系エージェントもコミッション狙いであるため、低い給料でも「こんなもんだ」と受け入れるように要求してくる。そういうことからか、全般的に海外の日本人雇用市場の給料は低迷している。ある国では過去10年間給料レベルが推移していないということも聞いた(要するにインフレ調整さえされてほとんどされていないレベルとか)。

同じようなことが一般的であれば、やる気のあるローカル日本人はローカル企業(この例では米系企業)への就職を選択するだろう。

さらに言えば、海外で働く日本人としていつも見過ごされているなあと思うのが、日系企業による積極的な海外在住日本人の活用だ。海外の大学や大学院やMBAを出た人材をその地で採用して日本との連携と現地の経営にもっと役立てていくことはできないのか、と感じる。

現地にいる優秀な日本人ほど日系企業との親和性が高い人材グループはないと思う。日本での採用ほど、粒ぞろいの人材を見つけることは難しいかもしれない。スキルセットや経験も千差万別であることは確かで、日本ほど大きな母集団から採用するわけではないからだ。だから自社の求める人材に該当する人はごく一部だろう。

ただ、海外で生きて行く、特に駐在員や交換留学のように会社や学校に所属することなく一人で海外で活路を切り開いて行く、というのは、それほど楽なことでもない。まさにこれも『OKY』、お前が来てやってみろ、の世界だ。だから大抵の人は現地事情に通じているだけではなく、精神的にもタフな人材も結構多い。

ただ、往々にして『海外にいる日本人は自己主張が強い』と捉えられてしまう。『出る杭だが、打つと外人並みに戦ってくる好戦的な人材』と見えるようだ。出過ぎた杭も使い用だと思うが、やる気より、駐在員の指示をそつなくこなす無難な人材が求められる。あるいは、採用してもまずは数年日本勤務が前提だとか、採用した後も日本流の人材管理の元で何となく年功序列の対応となり、特に採用後のキャリア展開のサポートをしていない。そういうことが数年続けば当然他に採用口を見つけられる人材はどんどん転職していくだろう。そうするとまたローカル日本人の評価が下がり、『ローカル日本人はすぐ辞める』となる。『相手(採用された側)がコミットしないなら、こっち(採用する側)もコミットしない』、という発想となり、当然採用される側もコミットしない会社に対してはコミットしないため、人材の流動性は高まるばかりだ。

もちろん、すべての日系企業がこうである、というわけではない。面白い取り組みをしている会社が最近増えているということですばらしいと思う。ただ、この日経ビジネスの企画で『周期遅れ』、と題されていたのをこの企画記事とは異なる角度から見てもうなずける。

『日本の技術神話を捨てろ』などという厳しい記事もときどき見かけるが、とはいっても日系企業の持つ技術は高い評価を受けるべきだと思うし、研究開発に当てる金額も情熱もトップレベルであることは間違いない。サービスの質も高い。海外事業における組織戦略、人材確保についても問題意識が低いわけではないと思う。だからこそ、売り場としての海外戦略から、次のレベルのグローバル化でももっと大胆な動きを見たいな、と個人的には思う。

ちなみに、この記事で『OKY』以外にも、人材登用の『卒業型』『入学型』『ニコイチ』という表現を学んだ。『卒業型』とは、すでに役職・役割に求められる技能を既に十分備えた人材を任用する方法、『入学型』は不足している技能もあるが、今後の成長ポテンシャルを買う考え方という。『ニコイチ』というのは、入学型の登用の際にメンターをつけ、『2人1組』とすることらしい。なるほど、勉強になりました。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

参考記事:
日経ビジネス
特集 グローバル人材の幻想(2012年12月24・31日号)

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
発行元:Analyze + Summarize
http://analyzesummarize.blogspot.sg/
Copyright(C)Analyze + Summarize
無断での転記引用はお断りしています。