【今回のテーマ:出すぎた杭も使い用なのでは?】
今朝、日経ビジネスを読んでいて、最近駐在員の間に『OKY』という表現があると読んで吹き出してしまった。日本本社に対する不満で『O(お前が)K(来て)Y(やってみろ!)』の略らしい。面白い~。
『グローバル人材の幻想』という企画のようで(リンクは最後に参照記事として掲載)目を通したが、幻想として以下3点が挙げられていた。
①機会を与えれば人は育つ
②海外人材ならいつでも採れる
③うちは人材を活かしている
どれも確かにそうだなあ、という内容で、読み進める。
最後は
『海外の優秀な人材にとって、日本企業は想像以上に魅力を失っている。日本人のグローバル化も途上だ。日本の本社が発想も組織もグローバル化しなければ、人材不足が将来の海外事業展開の大きな阻害要因となりかねない。足を止めた企業に未来はない。』
と締めくくられていた。
なるほど。
もともとグローバル化に注力していた企業、あるいは商社のようにそもそもグローバル思考が根底にある企業の海外展開はすでに確立しているし、売り場としての海外市場というのもある程度進んでいると思う。だから多くの会社にとってグローバル戦略のネクストステップは、組織戦略、人材戦略という分野になるのだろう。
ちなみに、この企画でも取り上げられていたが、日本ではGEのような会社がグローバル化の成功例として提示され、あたかも全般的に米系企業が進んでいると見えるかもしれない。ただ現状はそうでもない。日本と同じように、売り場確保では一定のプレゼンスを確保し、組織、人材のグローバル化はこれから、という企業も多い。
ただ、個人的な経験から言えば、海外の日系企業(海外支社)と米系企業の海外支社を比較して組織、人材戦略で圧倒的に異なると感じる点がある。あくまでも個人的な経験なので、海外にいる一人の日本人に対しどういう対応がなされたか、という一例でしかないことは認める。ただし、海外5カ国で勤務経験を持つので、複数カ国のデータポイントに基づいて評価しているとは考えている。
①『ポテンシャル』に対する評価の違い
米系企業の方が基本的なスキルセットや経験ベースを持っていると、ポテンシャルを買う意欲がより高い。日系企業はとりあえず下のポジションから採用してみよう(駐在員の下につける)、という動きを見せる。なんせ、日本企業では昇進スピードが遅いので、「とりあえず」から次のステップへの道のりが長い。そうなるともちろん採用される側としては、ポテンシャルを買ってくれる会社を選択するだろう。
②採用は『人材確保合戦』であることに対する認識の違い
米系企業の方が採用をより戦略的に捉えており、人材は取り合いと見なしている。そのため、傾向として、結果、給料が高い(個人的な経験では日系の提示額の倍相当を提示してくる)。日本ではここのところずっと買い手市場の雇用市場であることからか、海外でも人材は奪い合い、ということを忘れているように見受けられる動きも多い。日系エージェントもコミッション狙いであるため、低い給料でも「こんなもんだ」と受け入れるように要求してくる。そういうことからか、全般的に海外の日本人雇用市場の給料は低迷している。ある国では過去10年間給料レベルが推移していないということも聞いた(要するにインフレ調整さえされてほとんどされていないレベルとか)。
同じようなことが一般的であれば、やる気のあるローカル日本人はローカル企業(この例では米系企業)への就職を選択するだろう。
さらに言えば、海外で働く日本人としていつも見過ごされているなあと思うのが、日系企業による積極的な海外在住日本人の活用だ。海外の大学や大学院やMBAを出た人材をその地で採用して日本との連携と現地の経営にもっと役立てていくことはできないのか、と感じる。
現地にいる優秀な日本人ほど日系企業との親和性が高い人材グループはないと思う。日本での採用ほど、粒ぞろいの人材を見つけることは難しいかもしれない。スキルセットや経験も千差万別であることは確かで、日本ほど大きな母集団から採用するわけではないからだ。だから自社の求める人材に該当する人はごく一部だろう。
ただ、海外で生きて行く、特に駐在員や交換留学のように会社や学校に所属することなく一人で海外で活路を切り開いて行く、というのは、それほど楽なことでもない。まさにこれも『OKY』、お前が来てやってみろ、の世界だ。だから大抵の人は現地事情に通じているだけではなく、精神的にもタフな人材も結構多い。
ただ、往々にして『海外にいる日本人は自己主張が強い』と捉えられてしまう。『出る杭だが、打つと外人並みに戦ってくる好戦的な人材』と見えるようだ。出過ぎた杭も使い用だと思うが、やる気より、駐在員の指示をそつなくこなす無難な人材が求められる。あるいは、採用してもまずは数年日本勤務が前提だとか、採用した後も日本流の人材管理の元で何となく年功序列の対応となり、特に採用後のキャリア展開のサポートをしていない。そういうことが数年続けば当然他に採用口を見つけられる人材はどんどん転職していくだろう。そうするとまたローカル日本人の評価が下がり、『ローカル日本人はすぐ辞める』となる。『相手(採用された側)がコミットしないなら、こっち(採用する側)もコミットしない』、という発想となり、当然採用される側もコミットしない会社に対してはコミットしないため、人材の流動性は高まるばかりだ。
もちろん、すべての日系企業がこうである、というわけではない。面白い取り組みをしている会社が最近増えているということですばらしいと思う。ただ、この日経ビジネスの企画で『周期遅れ』、と題されていたのをこの企画記事とは異なる角度から見てもうなずける。
『日本の技術神話を捨てろ』などという厳しい記事もときどき見かけるが、とはいっても日系企業の持つ技術は高い評価を受けるべきだと思うし、研究開発に当てる金額も情熱もトップレベルであることは間違いない。サービスの質も高い。海外事業における組織戦略、人材確保についても問題意識が低いわけではないと思う。だからこそ、売り場としての海外戦略から、次のレベルのグローバル化でももっと大胆な動きを見たいな、と個人的には思う。
ちなみに、この記事で『OKY』以外にも、人材登用の『卒業型』『入学型』『ニコイチ』という表現を学んだ。『卒業型』とは、すでに役職・役割に求められる技能を既に十分備えた人材を任用する方法、『入学型』は不足している技能もあるが、今後の成長ポテンシャルを買う考え方という。『ニコイチ』というのは、入学型の登用の際にメンターをつけ、『2人1組』とすることらしい。なるほど、勉強になりました。
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参考記事:
日経ビジネス
特集 グローバル人材の幻想(2012年12月24・31日号)
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発行元:Analyze + Summarize
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